タタラと石工

勘十郎作

いつだったのか忘れたが、大山王国のMLに投稿したことがある。それは八岐大蛇やタタラについてのことだった。先日浜田の友人が周布川沿いにある長福寺の手水鉢を見てくれないかという。伯州石工の彫りこみがあるという。早速彼が送ってくれた写真データを調査してみると「石工伯州佐川 □□□□」残念ながら石工銘は読めなったが確かに伯州おそらく今の江府町佐川の石工のことであろう。年号は明治で石質は安山岩であった。ここには宝暦10年(1760)の見事な花崗製の五輪塔があり作者は「石工芸州廣嶋寺町之住寺田吉兵定」とあった。また私のデータの中に大田市大田町野城、三瓶ダム近くの野城神社(円城寺)に「八子石工伊代三郎」と彫られた灯籠があった。猫足台座で出雲・石見圏域のものではない。私はこれも伯州今の「南部町金花山の麓八金あたり」の石工と考えている。先月のブログにも書いたが大山大神山奥宮を訪ねたときに文化文政年間會見石工の名がついた石造物が随所で見られた。近在の神社でも大山の西側、橋本,箕蚊屋、鴨部、立岩などの地名のついた石工銘が数多く見受けられた。特に日野川流域に沿っての石工銘が多い。これはタタラ製鉄による流域一帯の繁栄ぶりを物語っているのではなかろうか。利害関係の発生するところには商人が全国から集まってくる。そして近くの神社に永久なる商売繁盛を祈願して狛犬や灯籠などを奉納するのである。また、大山を中心として比較的加工のしやすい安山岩が産出することが、會見一帯の優れた石工の多い要因であろう。ところで、「尾道石工嶋居勘十郎作」と彫られた石造物が石見でよく見受けられる。幕末天保から嘉永年間あたりの花崗岩製および砂岩製の狛犬、灯籠などの石造物に多い。そして統計的に「タタラ」で栄えた地域の神社仏閣の石造物を作っている。例えば大田市宅野、藤間家など鉄師、廻船業で活躍した名家がある。宅野で生産された鉄は、世界遺産である石見銀山の銀堀りで活躍しているし、佐渡島へも石見鉄として送られている。この地に鎮座する宅野八幡宮には、尾道から来た尾道型狛犬及び嶋居勘十郎作の花崗岩製玉垣が現存している。また、大田市久手町に鎮座する苅田神社には「尾道石工勘十郎」の嘉永2年の尾道型狛犬を見ることができる。久手港もタタラによる鉄の積出港で栄えたところである。江の川河口沿い江津市本町に鎮座する山辺神社には「嶋居勘十郎」と彫られた天保年間の花崗岩製灯籠を見ることができる、併せて尾道型狛犬そして江戸、大阪、山口(下関・萩)などの商人名が読み取れる石造物が多い。江の川流域は流域一帯でタタラ製鉄を行っていた。飯南町、美郷町、川本町そして桜江町から松川町あたりまでタタラ製鉄遺構が沢山発見されている。これを束ねる鉄師石田家は江津市波積町で活躍しタタラ製鉄の総本家である。江戸時代、銀や鉄を求めて鞆ヶ浦や温泉津港だけでなく江の川河口付近には沢山の北前船や商船が停泊していいた。砂鉄は地元の砂鉄だけでなく遠くは伯耆国、長門国にまで原材料を求めていたという。また、浜田市三隅町界隈特に三隅川、折居川流域は古くからタタラで栄えたところである。上流部井野、室谷あたりは日本一の砂鉄生産量を誇っていたとも云われている。ここの山中にある龍雲寺に幕末と思われる花崗岩製の宝篋印塔がある。この作者は「尾道石工勘十郎」であり、この銘文には江津波積の石田家当主の名前や邇摩郡大森の熊谷家那珂郡阿刀市村の澤津などタタラと関係する商人の名が記されていた。地域一帯が花崗岩地帯であり良質の砂鉄がとれることから江戸初期は幕府の領土でのち津和野藩の領土となった。この三隅川の河口に鎮座する湊浦八幡宮には長刕大浦石工石田榮助作狛犬や花崗岩製の鳥居、恐らく瀬戸内圏域の花崗岩と思われる、延宝5年(1677)は石見最古級であろう。また、流域の各神社には金屋子神社が摂社として祀られていることが多い。銀のみならず良質の鉄を求めて、石見は空前の大繁栄をなしたことであろう。奥出雲、日南などタタラで有名な地域だけでなく小規模タタラも含めて各地でタタラ製鉄が行われていたのである。全てを体系的にまとめて見ると、点であったものが線となり、やがて面となっていく。今では想像も出来ない事象が過去には行われていたのである。山や川や大自然の中にたたずむとき、ふと静寂さの中に当時の喧騒を感じる時がある。

石工 伯州佐川

野城神社

八子石工伊代三郎

宅野八幡宮

江津市江津町山辺神社

石工尾道住嶋居勘十郎作灯籠

宅野八幡宮 石工尾道住 嶋居勘十郎作玉垣

石工尾道住 嶋居勘十郎作玉垣

大田市 苅田神社

石工 尾道住 勘十郎作尾道型狛犬

尾道型狛犬

尾道型狛犬

三隅川の上流タタラで栄えた地にある龍雲寺

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